今さら医者や学者にはなれないが、せめて正直者になってみたらどうか。

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内容とは一切関係のない、これらのつまみが数分でなくなりすぐに追加した宅飲み

「無限の可能性」という名の有限な何かをきっちり使い果たし、20代のピリオドがすぐそこまで接近。手持ちのカードは「転職」や「引越し」「飲酒」とかの数枚で、「医者になる」とか「学問を追求する」はない。選択肢は減り、跳べる高さは低く、つねに「現実」がつきまとう。

 

決死の思いで布団をぬけ出して電車に乗りこみ、かったるさを足かせのように引きづりながら出勤する平日。退社時刻を今か今かとカウントダウンしてどうにか仕事をこなし、数時間分の疲労を両肩に乗せてまた電車へ。同じように暗い表情の乗客とスマホ画面を交互に眺めつつ、頭の中で冷蔵庫を開いて夕飯のメニューを考える。帰宅して上着をハンガーにかけ、つつましい食事をこしらえて腹に入れ風呂につかり朝まで眠る。そしてまた起きて働く。定期的におとずれる休日とわずかな給料を楽しみに、毎朝電車に乗る。

 

子供の頃想像していたよりも「大人の私」の日常はあまりに泥くさかった。

もっとエネルギーにあふれてきらめく、自由闊達な日々を夢想していた。

 

今さら医者や学者にはなれない。

けれどせめて、正直者になってみたらどうか。

 

正直者なのでもちろん、嘘やおべっかは言わない。口にするのは本当のことだけだ。

 

ダイエットに励む父は私が帰省するたび、「おれどう?やせてきた?」とうきうきしながら訊いてくる。これまでは「やせてる〜ガリガリ〜」と答えていた。でももうこう言おう。「まったく変わらん!」

 

職場の先輩は手元の仕事に飽きると、ヤマもオチもない話題を私に振ってくる。これまでは「そうなんですか〜へ〜は〜」と答えていた。でももうこう言おう。「ちょっと今忙しいのでSiriとでも話してもらえますか?!」

 

結婚願望がある友達は頻繁になんたらコンという名を冠したイベントに行っては、収穫がなかったと嘆く。これまでは「大丈夫だよ次があるさ」と答えていた。でももうこう言おう。「結婚しちゃったら寂しいからずっと独身でいてくれ!」

 

ここまで書いて、言葉だけでは正直者として不十分だと気づいた。真の正直者は、行動も正直であるべきだ。自分の本心に反することはしない。

 

まず、出勤するのをやめる。だって本心では出勤なんてしたくない。ずっと家にいたいのだ。仕事が嫌なので、在宅勤務とかではなく一切の労働を放棄。ただお金は欲しいから、給料は請求する。なぜってそれが本心なので。家の中でごろごろしながら、給料が振り込まれるのを待つ。ポテチやピザも食べたい。好きなマンガを携えて、コーラを飲んだりしよう。太るとか体に悪いとかは、ただの事実であって「食べたい」「飲みたい」という本心とは関係ないので無視だ。そして誕生する、ぶくぶくに太った仕事のできない30代女———。



よくわかりました。過剰な正直は身を滅ぼしますね。これからも自分の本心に嘘をつき、適度におべっかを使いながら、泥くさい毎日をなるべく愉快に過ごしていきたいと思います。おしまい。