ああすばらしき土曜夜

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 夕方17時、東京ドーム近くの店で友人たちと落ち会う。わたしが一番最後で、わたしが席につくなり、友人の一人が「これ、みんなにプレゼントなんだけど…」と言いながら洒落たSABONの袋を取り出す。プレゼント慣れしていないおれたちは本気でうろたえ、「えっ、これを受け取ったらなにか要求される?」「SABONの社長と付き合い始めた?」「闇ルートで仕入れたやつ?」ありがとうの前に疑問を矢継ぎ早に話す。今思えばえらく失礼だ。そして純粋なプレゼント(純粋なプレゼント?)と知り、いたく感動。「こんなことってあるんだ」「これからはなるべく人に贈り物をしよう」「人間のあたたかさにふれた」生きることに疲弊している週末は、可愛らしく結ばれたプレゼントのリボンが目に染みる。華やかな香りの贈り物は胸が弾んだ。

 

 そこは何度も行っている店で、初回の注文を伝え終えると、店員さんは必ず「すぐ出るものの注文は大丈夫ですか」と確認してくれる。というかいつもなんだから最初からすぐ出るもの注文すべきだな、と今思った。次に生かす。でもたぶん次もまた忘れて訊かれる。「今日は水茄子の刺身がおすすめです」と言われ、勧められるがままに注文、受領、美味。

 人数分の刺身を盛り合わせてくれた大皿はうつくしく、目が楽しい。カワハギの肝和えは毎回頼むが、毎回うまくてすごい。入梅イワシはとろとろで、この季節ばかりは鰯という文字が似合わないと思う。つよいです、イワシ先輩。いつもメインはブリしゃぶを食べるが、今日は前から気になっていた魚の焼肉を頼んだ。これがうまい。しっかりとタレの味が絡み、しかしそれに負けない魚の旨みがある。中心部はレアにして表面のみ焼くと、ほどよく脂が落ちた外側はほんのりと香ばしく、内側はとろりと甘く、なんとも贅沢だ。

 

 そのほかに、岩ガキ、はたはたの天ぷら、なめろう、たくさんの日本酒を飲む。かわいい店員さんは飲兵衛にやさしく、一合を飲み干すと「次のおすすめをお持ちしますか」と訊いてくれる。酒を飲みたいが、どれがいいのかわからないわたしたちにとって、「おすすめ」はありがたすぎる言葉だ。おねがいします、と言うだけでまたうまい酒が飲める。なんて素敵なシステムだ。アレクサ、音楽かけて。お姉さん、おすすめをお願いします。

 

 しこたま飲み食いして店を出るとまだ19時半で、17時集合の素晴らしさにひたる。空には明るさがわずかに残っていて、ああ夏がきたと思う。この夜を延長するためにスタバへはしご。路面に設置されたテーブル席で、おのおの好きなドリンクを飲み、夜風に涼む。ありがたし、土曜夜。酒を飲んだあとのコーヒーの美味さは、大人になって知ったすばらしきもののひとつ。

 

 わたしたちはそれぞれ何某かのおたくで、それぞれが好きなものの話をする。わからない話もあるが、それはそれでなんとも楽しい。異国のおとぎ話をきくようだ。中学の時から友達で、それからまぁまぁの時が流れたはずなのに、好きな話をしているときは14歳みたいな顔で笑う。それがとても良いと思う。好きなものを食い、好きなものを飲み、好きな人間たちと好きな話をする時間より尊いものは、多分ない。