恋人が同性だと9楽しくて1しんどい、その1の話

実家で母の誕生日会をした。母は私に「おばあちゃんを呼んでもいいか」ときいた。「あんたが嫌なら呼ばない」という。ずるいと思った。嫌か嫌じゃないかと言えば嫌で、それはおばあちゃんは必ず私に結婚や子供の話をするからだけど、でも母親に「あなたのお母さんが来るのは嫌です」とは到底言えない。なので答えはもちろんイエスだ。というわけで、誕生日会にはおばあちゃんが来た。
 
母はおばあちゃんが来るとなると妙に張り切る。母がおばあちゃんからの評価を気にしすぎてることに由来すると思う。私はそれを見るのもあまり好きではない。お母さんがいたいたしいと思うし、そういうお母さんの健気ながんばりをたまに無神経に悪気ない言葉でおばあちゃんがぶち壊しにして、あからさまに母が傷つくのが見ていられないからだ。でも母は、たぶんいい娘でいたいのか、そういうイベントごとに誘うとか、おばあちゃんの好物を作るとか、わかりやすい親孝行をしようとする。どうしてもそれを素直によしと思えない私は、親孝行の精神が足りていないのかもしれない。
 
とにかく、そうしておばあちゃんがきた。食卓には、父と母があちこちで買い集めてきた食べ物が並ぶ。にぎりたての寿司、デパチカみたいなサラダ、Lサイズの宅配ピザ、その他はなやかなもろもろ。冷蔵庫にはホールケーキもある。おばあちゃんは嬉しそうだ。でも私は身を固くして警戒している。いつ、おばあちゃんから恋愛関係の話がふられるのか気が気じゃない。寿司は大好物なのに、あとになって思い返しても味が全然思い出せなくて笑えた。よほど気を張っていたのだと思う。
 
おばあちゃんは席についてまず、美容師らしく私の髪型を褒めた。そして化粧、次に服を。これだから私は、おばあちゃんが来るときは身だしなみを気をつけないといけない。このどこかに問題があると、「綺麗にしておかないと結婚できない」みたいな話になる。とはいえ、綺麗にしていたところで、「もういつでもお嫁にいけるのにね」みたいな話になるのだけど。ご近所さんとの会話で、「孫の結婚式に呼ばれた」という話があったようで、「うちはね〜どうかしら」と答えておいたわ、と私に言う。そこですかさず母が「そうだね、10年後くらいになるかもしれないから、長生きしないとね」と冗談っぽく言う。私は「お父さん、痩せたらしいよ」と話題を変える。
 
ずっと、この繰り返しだった。
 
おばあちゃんが何か、私の結婚や出産や将来にまつわることを言う。母が「どうだろうね、周りの子も結婚してないもんね?転職は多いけどね」と、論点をずらせているんだかいないんだかなことを言ってごまかす。私はそれには答えず、まったく違う話題を振る。この繰り返し。ひたすら。
 
わかる。みんな私の幸せを望んでいることはわかる。そして同じくらい、自分も、他人と同じかそれ以上に、幸せになりたい、その気持ちもわかる。
おばあちゃんは私が思っている以上にきっと近所づき合いの中で、孫の結婚や、ひ孫の話をきいていて、私のそれを心待ちにしていることもわかる。
母は、私の居心地の悪さを察していて、おばあちゃんの話に乗らず、あくまでもフラットに話をかわしてくれている。わかる。
 
でもかなりしんどかった。
こんなことを、この場だけではなく、このままだと、一生くり返していくんだ。
おばあちゃんは会う度に私に結婚の話を振るだろう、母は本心では私に結婚してほしいのに、その気持ちを殺して「まあどうだろうね?」みたいなことを言うんだろう、私はその話に乗らず、意味の分からない話題を振るんだろう。
誰もかみあわない、どうしようもないコミュニケーション。こんなことを一生、ほんとに、一生。それは母と祖母に限らない。
 
耐えられる気がしない。母にも祖母にも申し訳ない。
どうしてこうなってしまったのか。どうしたらよかったのか。どうすればいいのか。帰り道、涙がとまらなかった。